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税理士 長嶋佳明
税理士 長嶋佳明
長嶋佳明税理士事務所
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相続税対策に不動産管理会社を活用するべきなのか?
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相続税対策に設立した不動産管理会社をうまく運営する
相続税対策に注意すべき不動産管理会社の土地賃貸借
不動産管理会社が消費税の還付を受けるにはどうすればよいのか?

相続税対策に注意すべき不動産管理会社の土地賃貸借

不動産オーナーが所有する土地の上に不動産管理会社が建物を建築した場合、あるいは、不動産管理会社が不動産オーナーの所有する土地の上にある建物を所有した場合には、不動産管理会社は不動産オーナーから土地を借りることになりますので、土地の賃貸借契約を結ぶことになります。
この賃貸借契約の内容によっては借地権の問題が出てくることとなり、所得税・法人税・相続税といった税金に影響してきます。
そこで、不動産管理会社と不動産オーナーとの間でどのような賃貸借契約を結ぶことでどのような税金に影響するのかを理解しておくことはとても重要です。

1 . 土地の賃貸借について基本的な考え方

例えば、土地を所有する個人がマイホームを建てたいと希望する第三者に土地を貸した場合には、この貸した土地は半永久的に土地を所有する個人に戻ってくることはないでしょう。
そのため、土地を所有する個人としては、権利金という名目で返還不要の一時金の支払いを求めることになるでしょう。
土地を貸している間は、通常の地代を第三者から受け取ることになります。
例えば、土地を貸す相手が不動産を所有する個人の子供であるときに権利金の支払いを求めるでしょうか。この問いは、土地を貸す相手が不動産を所有する個人の家族が設立した不動産管理会社であるときも同じことが言えます。
第三者に対して土地を貸す場合には権利金の支払いを求める一方で、子供や不動産管理会社といった家族の関係者に土地を貸す場合には権利金の支払いを求めないようなことになれば、不公平が生じてしまいます。
そこで現在の税制は、建物の所有を目的とした土地の賃貸借は権利金を受け取ることを前提としていますので、不動産管理会社が土地を賃借する場合であっても、不動産オーナーに権利金の支払いをしなければなりません。
不動産管理会社から不動産オーナーに権利金の支払いがない場合には、不動産管理会社は不動産オーナーから権利金相当額の贈与を受けたとされ、不動産管理会社に対して法人税が課税されてしまいます。
これを「権利金の認定課税」と言います。
権利金の支払いをしない場合でも、権利金を支払う代わりに土地の利用について相当の地代を支払う場合、あるいは不動産管理会社と不動産オーナーとの間で将来その土地を無償で返還することを定めて税務署長にその旨を届け出た場合は、権利金の認定課税は受けません。
不動産管理会社と地主である不動産オーナーとの間の土地の賃貸借の方法は、次の4つがあります。
(1)権利金を支払う
(2)相当の地代を支払う
(3)無償返還の届け出を行う
(4)使用貸借
(1)の権利金を支払うことを選択しますと、不動産管理会社は不動産オーナーに対して権利金の支払いをしなければなりませんので、多額の現金が必要となります。
さらに、権利金を受け取った不動産オーナーは所得税の負担が大きくなってしまうことに注意が必要です。
(2)の相当の地代を支払うことを選択しますと、不動産管理会社は不動産オーナーに対して権利金の支払いをする必要はありませんが、不動産オーナーに対して高額な地代を支払わなければなりません。
高額な地代は不動産オーナーの不動産収入となるため、所得税の負担が大きくなってしまうことに注意が必要です。
(3)の無償返還の届け出を行うことを選択すると、地代はゼロ円でも構いませんし、(2)の相当の地代を支払っても構いません。
不動産オーナーの相続税対策、そして所得税対策を目的として不動産管理会社を活用するのであれば(3)を選択して、地代はできる限り低く設定しておくことが望ましいでしょう。
(4)の使用貸借を選択すると「土地の無償返還に関する届出書」を提出しない限り、権利金の認定課税を受けることになるため注意が必要です。
つまり、権利金の認定課税を避けるためには(1)から(3)の方法を選択することになります。
どの方法が良いのかは相続税対策を必要とされているのか、所得税対策を必要としているのかなど、各ご家族により状況が異なりますので、家族の状況に合った方法を十分に検討することが必要でしょう。
2 . 権利金の認定課税とは
借地権を設定して借地人に土地を使用させると、借地人は借地借家法により地主に対して強い権利を持ちます。
一方で、将来その土地の地価が値上がりしたとしても地代を値上げすることができるとは限らず、将来的に借地契約を更新する場合においても、正当な事由がなければその更新を拒むことができません。
このように、土地に対して借地権が設定されてしまうと底地を持つ地主にとっては土地の利用価値が大きく低下することになりますので、土地の利用価値が低下する不利益をカバーするため、借地権を設定する際に権利金を受け取ることが慣行とされてきました。
権利金を受け取る慣行があるにもかかわらず、地主が理由もなく権利金を受け取らない場合は、権利金相当額を借地人に贈与したものとされます。
これが権利金の認定課税の考え方です。
権利金の認定課税の問題が生じるのは、次の3点を満たす場合です。
・借地権を設定すること(土地の賃借権又は地上権)
・権利金を受け取る慣行がある地域であること
・権利金を受け取っていないこと
なお、権利金を受け取る慣行がない地域の場合には、権利金を受け取らないことが通常ですので、権利金の認定課税の問題は生じません。
(1)借地人と地主の課税関係
借地権を設定した場合において、通常権利金を受け取る取引上の慣行がある地域において権利金を受け取らないときは、通常受け取るべき権利金相当額を地主から借地人に対して贈与したものとされ、借地人に対して権利金の認定課税が行われます。
また、通常受け取るべき権利金よりも少ない権利金を受け取ったときは、通常受け取るべき権利金との差額について、権利金の認定課税が行われます。
この場合において、通常受け取るべき権利金とは、その土地の通常の取引価額に借地権割合を乗じて計算した金額とされます。
(a)借地人である不動産管理会社の課税関係
借地人である不動産管理会社が権利金の認定課税を受けた時は、地主である不動産オーナーから借地権を無償で取得したものとされ、この借地権は不動産管理会社の資産と取り扱われるとともに、借地権と同額が不動産管理会社の収入となります。
不動産管理会社が赤字である場合や繰越欠損金が多額にある場合を除いて、多額の法人税が課税されることに注意が必要です。
(b)地主である個人の課税関係
所得税法における収入金額とは、その年に現実に収入すべき金額とされていることから、無償による資産の譲渡(借地権の設定)については収入金額とは認識されないことから、地主が個人であるときは権利金の認定課税は行われません。
参考までに、所得税法では個人から法人に無償で資産を譲渡した場合には時価で譲渡したものとみなされる「みなし譲渡」の規定がありますが、この資産の譲渡には借地権の設定は含まれていません。
そのため、借地権が個人から法人に無償で異動したとしても、地主である個人に対して譲渡所得税は課税されません。
いずれにしましても、地主が個人である場合は、権利金の認定課税は行われません。
(例)
借地人である不動産管理会社が地主である不動産オーナーとの間で土地の賃貸借契約を結び、権利金を受け取らずに通常の地代を受け取っている場合
土地の通常の取引価額:1億円
借地権割合:70%
通常受け取るべき権利金:7000万円(1億円×70%)
借地人である不動産管理会社は地主である不動産オーナーから7000万円の贈与を受けたものとして、7000万円を収入としなければなりません。
地主である不動産オーナーについて課税関係は生じません。
(2)課税の問題が生じないケース
不動産管理会社が第三者の所有する土地の上に建物を建築した場合には、通常は権利金を支払わなければなりません。
ところが、土地の所有者が不動産オーナーである場合には権利金を支払うとことなく土地を使用させることがあります。
この場合、不動産管理会社は権利金に相当する利益を受けたことになりますので、その利益に対して法人税が課税されてしまいます。
ここで、不動産管理会社に繰越欠損金が多額にある場合は、結果として法人税がかからずに借地権を取得することができます。
その結果、不動産オーナーが所有する土地は相続税を計算する際には「底地」として評価されますので、相続税を大幅に減らすことができます。
なお、借地権の贈与を受けた不動産管理会社については、借地権の贈与を受けたことで不動産管理会社の株価が上昇した場合には、地主である不動産オーナーから不動産管理会社の株主に対して、株価上昇分の贈与があったものとされる可能性がありますので注意が必要です。
3 . 土地の賃貸借の方法と課税関係
不動産管理会社と地主である不動産オーナーとの間の土地の賃貸借の方法は、次の4つがあります。
(1)権利金を支払う
(2)相当の地代を支払う
(3)無償返還の届け出を行う
(4)使用貸借
(1)権利金を支払う
借地権の設定にあたっては、借地人から地主へ権利金を支払い、借地人は底地の使用料として地主へ「通常の地代」を支払います。
また、借地権設定時の課税関係は次のようになります。
① 借地人である不動産管理会社
支払った権利金は不動産管理会社の資産となります。
② 地主である不動産オーナー
権利金を受け取った不動産オーナーの課税関係は、受け取った権利金の額により次の2つに区分されます。
(a)権利金の額が土地の時価の2分の1以下である場合
(b)権利金の額が土地の時価の2分の1を超える場合
(a)権利金の額が土地の時価の2分の1以下である場合
権利金の額が土地の時価の2分の1以下である場合は、その権利金は地主である不動産オーナーが受け取った年の不動産所得とされ、所得税が課税されます。
権利金の額が高額になった場合には、地主である不動産オーナーの所得税・住民税の負担も高額になってしまいます。
権利金収入は権利金を受け取った年だけに偶然に発生するものであり、毎年受け取るものではありません。
偶然に受け取った権利金が高額だからという理由だけで多額の所得税・住民税が課税されてしまうのは税の公平性が薄れてしまうことから、権利金を臨時所得として扱い平均的に所得税の課税を受けることで、所得税の負担を抑えることもできます。
権利金について平均課税を受けるには、次の条件を満たすことが必要です。
・権利金は不動産を3年以上他人に貸し付けることで一時的に受け取るものであること
・権利金の額はその不動産の使用料の2倍相当額以上であること
・その年の臨時所得の額は、その年の総所得金額の20%以上であること
(b)権利金の額が土地の時価の2分の1を超える場合
権利金の額が土地の時価の2分の1を超える場合には、借地権を譲渡したものとされ、地主である不動産オーナーの譲渡所得として所得税が課税されます。
③ 地代の額
権利金の支払いがあった場合には、地主である不動産オーナーが所有している底地部分の使用料として不動産管理会社は通常の地代を支払うことになります。
通常の地代は、底地の価額×6%により計算しますが、周辺の地代の相場と同じでも問題ないでしょう。
④ 相続税評価額
借地権の相続税評価額は、借地権が設定されている土地の自用地評価額に借地権割合を乗じて計算します。
借地権が設定されている土地の底地の相続税評価額は、その土地の自用地評価額から借地権の評価額を差し引いて計算します。
(2)相当の地代を支払う
借地権の設定について権利金を支払う慣行がある地域において、権利金の支払いをする代わりに土地の使用料として「相当な地代」を支払っているときは、その土地の賃貸借契約は正常な取引であるとして、権利金の認定課税を受けることはありません。
通常、借地権を設定したことで権利金を支払った場合には、底地部分の使用料として「通常の地代」を支払うことになりますが、土地全体の使用料として「相当の地代」を受け取ったときは、権利金の代わりに相当の地代を受け取ったものと考えられます。
① 借地権設定時の課税関係
借地権の設定にあたり、権利金を支払うことに代えて相当の地代を支払っていれば、権利金の認定課税は行われません。
しかし、相当の地代よりも低い地代に設定した場合には、次の算式により計算した権利金の受け取りがないときは、権利金の認定課税が行われます。
その土地の更地価額×(1-実際に収受している地代÷相当の地代)
また、借地権を設定したときに相当の地代を支払っている場合でも、その後地代を引き下げるようなことがあったときは、地代を引き下げる代わりに権利金を支払っている、あるいは、土地の価額が借地権設定時よりも下落しているなどの相当な理由がない限り、地代を引き下げた時において、権利金の認定課税が行われる可能性があることに注意が必要です。
② 相当の地代の計算方法
相当の地代は、次の算式により計算します。
相当の地代の年額=土地の更地価額×6%
この場合の土地の更地価額は、次のいずれかにより計算することができます。
・通常の取引価額
・公示価格または標準価格から合理的に算定した価額
・その年の土地の相続税評価額
・その年以前3年間の土地の相続税評価額の平均値
③ 相当の地代を選択する
相当の地代は、次の2つのいずれかを選択することになります。
(a)改訂型
(b)据置型
どちらの方法を選択したのかを土地の賃貸借契約書に記載し、相当の地代の改定方法に関する届出書を土地所有者の所轄税務署長に遅滞なく提出することになります。
この届出書の提出がない場合は、(b)の据置型を選択したものとされます。
(a)改訂型
相当の地代を土地の価額に応じて、おおむね3年ごとに改訂する方法です。
改訂型の場合、土地の価額に対して適正な地代を受け取ることになりますので、地主は土地の更地価格を常に有していることになります。
(b)据置型
相当の地代を半永久的に据え置く方法です。
据置型を選択すると、土地の地価が上昇した場合にも地代が据え置かれますので、土地の価額に対する地代の利回りが低くなります。
地代の利回りが低下することで底地に対する割合も縮小されることから、この縮小部分について借地権が自然に発生する結果となり、この借地権は徐々に借地人に帰属することになります。
この自然に発生した借地権のことを「自然発生借地権」と言いますが、地価上昇に伴い借地人に帰属した自然発生借地権に対しては、借地権の認定課税は行われません。
据置型を選択するメリットとしては、借地権を借地人に積極的に移転したい場合ですが、自然発生借地権が認識されるのは土地の価額が上昇することが前提であるため、注意が必要です。
④ 相続税評価
(a)改訂型
相当の地代が支払われている場合には、借地権はゼロとなります。
貸宅地の相続税評価額は、自用地の相続税評価額から借地権を控除して計算しますが、相当の地代を受け取ることで借地権がゼロであったとしても、借地権が設定されていることには変わりありません。
そのため、地主は自由に土地を使うことができないため、自用地の相続税評価額から20%を控除して計算することとされています。
なお、借地人が不動産管理会社である場合は、不動産管理会社の株価を計算する際に、自用地の相続税評価額の20%が純資産価額に加えられます。
(b)据置型
支払っている地代が相当の地代と同じであれば(1)の改訂型と同じになりますが、支払っている地代が相当の地代に満たないときは、次の算式により計算します。
自用地評価額×借地権割合×(1-実際の地代ー通常の地代÷相当の地代ー通常の地代)
借地人が不動産管理会社であるときは、不動産管理会社の株価を計算する際に、純資産価額に加えられます。
また、貸宅地の評価は、自用地の相続税評価額から上記の算式により計算した借地権を控除します。
(3)無償返還の届け出を行う
権利金を支払う取引慣行がある地域において借地権を設定する場合には、権利金を支払うか相当の地代を支払っていないと権利金の認定課税が行われます。
権利金の認定課税が行われる理由は、借地借家法により借地人が借地に対して強い権利を持っていることによるものですが、地主である不動産オーナーの家族が設立した不動産管理会社との土地貸借においては、借地に対する権利を主張するようなことはありませんので、通常は権利金を支払うことや相当の地代を支払うようなことはありません。
これは将来に借地が返還されるときには、立退料などの一時金を不動産管理会社は不動産オーナーに対して要求しないことが前提となっています。
このような場合において、相当の地代に満たない地代の支払いであっても、不動産管理会社と不動産オーナーとの間で将来その借地を無償で返還することを定めて税務署長に届出書を提出した場合には、権利金の認定課税を行わず、相当の地代と実際の地代の差額について、地代の認定課税が行われます。
無償返還方式を選択すると、不動産管理会社には借地権が発生しないため、地主である不動産オーナーが将来借地の返還を受ける際には、立退料などを不動産管理会社に支払う必要はありません。
① 地代の認定課税が行われた場合
実際に支払う地代が相当の地代に満たないときは、地代の差額について地代の認定課税が行われますが、地主が個人のケースでは次のように取り扱われます。
(例)
相当の地代1000万円、実際の地代500万円
(a)地主が不動産オーナー個人であるとき
実際に受け取る地代が不動産所得となるため、相当の地代と実際の地代の差額について、課税関係は生じません。
(b)借地人が不動産管理会社であるとき
相当の地代と実際の地代の差額の500万円が不動産管理会社の経費になっていませんので、結果として法人の利益が増えることで法人税が課税されることになります。
つまり、地主が不動産オーナー個人で借地人が不動産管理会社であるときは、実際の地代が相当の地代に満たない場合であっても、地代の認定課税は行われません。
② 相続税評価
土地の無償返還の届出書を提出している場合には、借地権がありませんので借地権の評価額もゼロとなります。
この場合において、借地人が不動産管理会社であるときは、不動産管理会社の株価を計算する際に、借地となっている土地における自用地の相続税評価額の20%を純資産価額に加えることとなります。
また、この借地となっている土地には借地権が設定されていると考えられるため、この土地の底地の相続税評価は貸宅地となります。
この土地の自用地の相続税評価額から20%を差し引いて計算したものが貸宅地としての相続税評価額となります。
なお、土地の賃貸借契約が使用貸借であるときは、借地となっている土地は自用地として相続税評価額を計算するとともに、借地人である不動産管理会社の株価を計算する際にも、純資産価額に加える必要はありません。
③ 地代の額
地主である不動産オーナーと不動産管理会社との間で無償返還の届出書を提出したときは、地代はゼロから相当の地代の範囲内で自由に設定することができますが、地代の額によって土地の相続税評価額が異なりますので注意が必要です。
使用貸借は民法において、借主は借用物の通常の必要経費を負担するものとされています。
そのため、土地の相続税評価においても、固定資産税相当額の地代の支払いについては「使用貸借」であると考えます。
このようなことから、土地の相続税評価額を引き下げるには「賃貸借契約」であることが求められます。
賃貸借契約とされれば、土地の相続税評価額は自用地の80%評価となります。賃貸借契約とされるためには、地代は固定資産税相当額の2倍以上に設定しておくことが望ましいでしょう。
(4)使用貸借
使用貸借とは、土地の賃貸借において使用の対価の収受がなく、無償であることをいいます。
民法において、使用貸借は借主が借用物の通常の必要経費を負担するものとされているため、不動産管理会社が地代を支払っていても、その地代が固定資産税相当額であるときは、その賃貸借は使用貸借とされます。
なお、土地の貸主、借主の双方が個人である場合の使用貸借、あるいはいずれかが法人である場合の使用貸借の取り扱いが異なりますので注意が必要です。
① 個人間の使用貸借
土地の地主と借地人が親子などである場合、土地の賃貸借について権利金や地代の支払いをしないことがほとんどです。
また、建物を所有することを目的とする土地の賃貸借は借地借家法により保護されますが、使用貸借は保護されません。
そのため、個人間の使用貸借においては借地権の認定課税は行われず、土地の相続税評価額は自用地として評価されることになります。
② 借地人が不動産管理会社である場合
地主あるいは借地人が不動産管理会社であるときは、使用貸借契約であっても土地の無償返還の届出書を提出していないと、借地権の認定課税が行われますので注意が必要です。
法人は正常な取引により経済活動を行うことが前提であるため、使用貸借で土地を借りるということを前提としておらず、使用貸借により土地を借りるということは、不動産管理会社は通常支払うべき地代を免除されているものと考えます。
つまり、相当の地代に満たない地代を払っていることと同じであることから、土地の無償返還の届出書を提出していない場合は、借地権の認定課税が行われることになります。
使用貸借されている土地について土地の無償返還の届出書を提出している場合には、使用貸借されている土地の相続税評価額は自用地として評価することになります。
(5)権利金方式・相当地代方式・無償返還方式のどれを選択すればよいのか?
借地権の認定課税を受けないようにするためには、① 権利金を支払う、② 相当の地代を支払う、③ 無償返還の届け出を行う、のいずれかを選択しなければなりません。
では、どの方法を選択すればよいのでしょうか。
相続税や所得税の税制の状況、日本経済の景気の状況、地主と借地人の状況などを踏まえて、それぞれのご家族の状況に合った方法を検討することになります。
① 権利金を支払うとよいケース
権利金方式を選択すると、借地人である不動産管理会社は権利金を支払うために多額の資金が必要となります。
一方、権利金を受け取った地主である不動産オーナーは、受け取った権利金は譲渡所得または不動産所得として所得税が課税されます。
そのため、通常は不動産管理会社と不動産オーナーとの間で権利金を支払うことは少ないものと思われます。
しかしながら、権利金を支払うことでメリットが出てくる場合もあります。
例えば、不動産オーナーが相続税を現金一括で払うことができなかったために延納により相続税を支払っているケースです。
相続税を延納により支払う場合には、利子税も合わせて支払うことになります。
この利子税は不動産の事業で発生したものではないため、不動産所得を計算する際に経費として認められません。
このような場合に、地主である不動産オーナーが不動産管理会社から権利金を受け取り、その資金で延納している相続税を返済してしまうのです。
不動産管理会社に権利金として支払う資金がなければ銀行から借り入れます。
不動産管理会社としては、借地権を購入するための資金を銀行から借り入れたことになりますので、この借入金に対する利息は不動産管理会社で経費にすることができます。
つまり、地主である個人が相続税の延納に対する利子税を支払っていても税金を計算する際に経費になりませんが、不動産管理会社を絡めることで経費にすることができます。
利子税を借入利息にすることで不動産管理会社の経費にできることはメリットですが、ここでクリアすべき課題は地主である不動産オーナーの所得税です。
不動産オーナーが権利金を受け取ってしまうと、譲渡所得税あるいは不動産所得として所得税が課税されてしまいます。
譲渡所得税として課税される場合でも、相続税の取得費加算の特例を受けることができれば譲渡所得税の負担が軽減されます。
また、不動産所得として課税される場合でも平均課税が受けられるようであれば、所得税を軽減することができます。
② 相当の地代を選択すると良いケース
地価が上昇傾向にある経済状況においては、相当の地代を選択すると良いでしょう。
相当の地代を選択すると、地代は土地の更地価額の6%に設定されます。
例えば、土地の更地価額が1億円であれば、不動産管理会社は不動産オーナーに対して年間600万円の地代を支払うことになります。
不動産オーナーの不動産所得が高額であり、不動産管理会社を設立する目的が不動産オーナーの所得を分散させる場合は、相当の地代方式を選択するべきではないでしょう。
しかしながら、不動産管理会社を設立する目的が地主の相続税対策であるときは、相当の地代方式を選択することもよいでしょう。
土地が将来値上がりすることが期待できる地域であれば、土地の地価上昇に伴う借地権を不動産管理会社に移転することができる「据置型」を選択すると相続税対策としての効果が出てきます。
③ 無償返還方式を選択するとよいケース
地価が下落傾向にある、あるいは横ばいである経済状況においては、無償返還方式を選択するのが良いでしょう。
不動産管理会社を設立する目的の一つとして不動産オーナーの所得税対策のために、不動産オーナーの不動産収入を分散することがあります。
不動産管理会社の役員を不動産オーナーの家族にしておき、建物の収入を不動産管理会社に入れることができれば、不動産オーナーの不動産収入を役員報酬により家族に分散することができます。
不動産管理会社は借地に対する地代を不動産オーナーに支払うことになり、この地代は不動産オーナーにとっては不動産収入となってしまうことから、不動産オーナーに支払う地代はできるだけ少なくしたいところです。
無償返還方式を選択するときの地代は、相当の地代よりも低い地代にしても問題なく、また借地権の問題を回避することができます。
さらに、不動産オーナーの相続税対策として、地代を賃貸借とされる最低額の地代を設定することで、底地の相続税評価額は自用地の相続税評価額の80%相当額で評価をすることができます。
4 . 小規模宅地等の特例への影響
(1)小規模宅地等の特例とは
土地の相続税評価額を計算するときにおいて、小規模宅地等の特例制度があります。
小規模宅地等の特例制度とは、相続又は遺贈により土地を取得した場合に、その土地が被相続人の事業や居住に使われていた宅地等で、建物又は構築物の敷地に使われているものについては、次の区分に応じ土地の相続税評価額を一定割合減額することができます。
区分 面積制限 減額割合
被相続人等の
事業用
不動産貸付以外 特定事業用宅地等 400㎡ 80%
上記以外 200㎡ 50%
不動産貸付 特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 80%
上記以外 200㎡ 50%
被相続人等の
居住用
特定居住用宅地等 330㎡ 80%
上記以外 200㎡ 50%
国の事業用 国営事業用宅地等 400㎡ 80%
上記以外 200㎡ 50%
(2)小規模宅地等の特例と地代の関係
不動産管理会社へ賃貸している土地を相続又は遺贈により取得した場合に、その土地が小規模宅地等の特例の条件を満たす場合には、その土地の相続税評価額を計算する際に200平方メートルを限度として50%減額することができます。
小規模宅地等の特例の適用を受けるには、次のことが条件の一つとされています。
「相当の対価を得て継続的に貸し付けていること」
つまり、土地の所有者である不動産オーナーは不動産管理会社に対してそれなりの地代を受け取ることが条件となっています。使用貸借により土地を貸し付けたときは、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。
そこで、借地権の認定課税を受けることを避けるため「土地の無償返還の届出書」を提出し、土地を使用貸借ではなく賃貸借にすることで、土地の相続税評価額は次のように計算されます。
① 土地の相続税評価額は自用地評価額の80%となる
② さらに小規模宅地等の特例の適用により200平方メートルまで50%減額
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